任意後見契約と家族信託契約の違いと比較
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任意後見契約と家族信託契約、何が違う?
終活、とりわけ認知症になってしまった場合の法的な備えとして、
「任意後見契約」と「家族信託契約」の2つが注目されており、
終活を指南する書籍やセミナー、サイトなどで盛んに取り上げられています。
ところでこの2つの契約、どのような違いがあるのでしょうか。
違いについて説明できない…という方も、多いのではないかと思います。
任意後見契約と家族信託契約の概要比較
まずは、こちらの表をご覧下さい。
任意後見契約 | 家族信託契約 | |
---|---|---|
主な機能 |
①財産管理 →預金通帳の管理、出入金、 自宅の管理などです。 ②身上監護 →老人ホームの入居など、 各種手続き・契約を、 本人に代わって行います。 ※財産を減らす可能性がある行為 (例:不動産の売却)は、 原則としてできず、 家庭裁判所の許可が必要です。 ※配偶者や同居の子供など、 近しいご家族が、 これらを行う場合には、 任意後見契約がなくても、 できる場合が多いです。 |
①財産管理 ②資産運用 →任意後見と異なり、 賃貸不動産の経営や、 不動産の売却・建て替え、 株・投資信託の運用などが 可能です。 (証券会社に預けている、 株・投資信託等については、 証券会社により、 対応不可の場合もあります) ※身上監護の機能はありません。 |
契約対象財産 | すべて |
選択可能 ※遺言に記載のある 財産を含める場合、 信託契約が遺言に優先します。 ※年金受取口座など、一部、 信託不可能なものがあります。 |
契約書 作成方法 |
公正証書(公証役場) ※私的な契約書として 自分達で作ることはできません。 |
公正証書(公証役場) ※私署証書とすることも、 不可能ではありませんが、 公正証書とすることを、 強くお勧めします。 |
契約に基づく 業務の開始 |
家庭裁判所による 任意後見監督人の 選任後 |
信託契約の締結後 |
不正防止対策 |
任意後見監督人を必ず選任し 任意後見監督人の 監督指導を受ける ※任意後見監督人を誰にするか、 申立て時に親族・友人等を 推薦することは形式上可能ですが、 実際はほとんどのケースで 専門職が選ばれています。 |
希望により、 信託監督人を置くことができる ※契約により、 任意に選ぶことができます。 |
メリット |
①後見制度で後見人に 代理してもらえるものの中から 希望に応じて任せるものを 選択できる ②不正防止効果が強い ③認知症になってしまっても 確実に財産を守ってもらえる ④身上監護を含む契約にすれば 日常生活面の支援も受けられる ⑤昔からある制度なので 安心感が高い |
①委託者が認知症になっても 財産管理ができる ②任意後見契約に比べて 財産管理の自由度が高い ③資産運用ができる ④信託財産を 後で追加することもできる ⑤委託者の死後の信託財産について どうするかを指定できる ⑥不動産共有によるリスクを 回避できる ⑦倒産隔離機能がある ※信託専用口座は対象外 ⑧複数世代への相続指定ができる ⑨事業承継対策になる |
デメリット |
①任意後見監督人選任の 申立てをしないと 実際の後見が始まらない (申立ては意外と面倒) ②法定後見と異なり、 すべての契約を 取り消せるわけではない ※任意後見で取り消せない契約を 取り消す場合は、 法定後見の申立てが必要です。 ③葬儀、遺品整理等 死後事務はできない ※死後事務委任契約が 別途必要です。 ただし、身近にご家族が いらっしゃれば、 死後事務委任契約は不要です。 ④資産運用は不可 ⑤生前贈与は不可 ⑥契約に記載のないことは不可 ⑦定期預金の解約や 高額の物品購入など、 任意後見監督人や家庭裁判所から 指導が入ることがある ⑧同居家族の生活費を本人の財産、 収入から賄っている場合、 その支出について 任意後見監督人から制限される 可能性がある ⑨費用と時間がかかる ⑩原則、後見が開始すると、 本人が死亡するまでやめられない |
①身上監護は不可 ②信託できない財産がある (預金口座そのもの、 年金、農地など) ③追加信託は委任者本人が 手続きする必要があるため、 委任者本人が認知症になると 以降の追加信託は不可 ※預金については、 自動送金を申し込んで 対応できる場合もあります ④受託者を誰にするかで 家族間でもめる可能性がある ⑤節税効果は少ない ⑥収益不動産の損益通算は不可 ⑦遺留分侵害になる可能性 ⑧家族の理解と同意が得られにくい ⑨受託者が信託財産を 悪用してしまうリスクがある ※この点、 信託監督人を置くことや、 違反対処法を契約書に 明記するなど、 対策を取ることができます ⑩比較的新しい制度なので、 運用が定まっていない (運用変更の可能性あり) |
併用 |
可 (生前委任、家族信託、 遺言、死後事務委任) |
可 (任意後見、法定後見、 遺言、死後事務委任) |
こんな方に おすすめ |
①おひとりさま ②認知症対策をしたい方 ③ご家族が全員遠方にいるなどで、 いざという時すぐに頼れる人を ご家族以外に求めたい方 ④見知らぬ第三者が 成年(法定)後見人として 財産管理をするのが嫌な方 ⑤認知症になった後に発生する 契約手続きについて 代理してもらいたい方 ⑥初期費用を抑えたい方 |
①ご家族が同居、または近居の方 ②認知症対策をしたい方 ③財産管理を お身内だけで行いたい方 ④委託者または受託者が破産しても 一定の財産を守りたい方 ⑤孫世代にまで財産の承継を指定 (事実上の相続)したい方 ⑥親が自身のお金を 使い込まないよう 管理監督したい方 ⑦共有不動産の管理を 円滑にしたい方 ⑧信託の仕組みを活用して 賃貸不動産を新たに 経営するための 資金を借り入れたい方 ⑨トータル費用を抑えたい方 |
こんな方には 不向きです |
①既に認知症の方 ※法定後見での対応となります。 ②財産管理に家庭裁判所や 第三者の関与を認めたくない方 ③家族間での身上監護だけを 目的としたい方 ※ご家族であれば、 任意後見契約がなくても、 入院や施設入所は 大抵対応できます。 ④家族の中に後見制度についての 理解を示してくれない方がいる方 ⑤トータル費用を抑えたい方 |
①既に認知症の方 ②身上監護に重きを置きたい方 ③家族間に争いのある方 ④家族全員に説明し、 理解を得られない方 ⑤信頼できるご家族がいない方 ⑥不動産の売却予定がない方 ⑦認知症によって 預貯金口座が凍結しても 当面の生活に困らない方 ⑧介護などへの出費について、 信託財産の収益をあてにしない方 ⑨生前贈与を既に行っており、 家族への財産承継が済んでいる方 ⑩初期費用を抑えたい方 |
このような違いがあります。
併用もできますし、他の制度の方が合っている場合もあります。
ご家族を含めた皆様の状況、お考えや財産の状況、ライフプランにより、
適しているものは異なります。
だからこそ、専門家を交えて最適なものはどれか検討することが重要です。
後見人/受託者にできること、できないこと
続いては、任意後見契約の後見人と家族信託契約の受託者、
それぞれどのようなことができるのか、またできないのかを見てみましょう。
任意後見契約後見人 | 家族信託契約受託者 | |
---|---|---|
預金の預け入れ 引き出し |
○ ※銀行への後見届出が 必要です。 |
○ ※信託口口座または 信託専用口座。 銀行によって取り扱いが 異なります。 |
預金の解約 |
△ ※任意後見監督人の了解が あればできます。 |
○ ※信託口口座または 信託専用口座以外の 委託者名義口座を、 委託者本人の意思に基づき 解約する場合に限ります。 |
株式 投資信託等 資産運用 |
× |
○ ※証券会社によっては ×です。 |
定期的な支出 | ○ |
○ ※信託口口座の場合、 信託専用口座と比較して、 支出に制限がかかることが あります。 |
定期的な 収入の管理 |
○ |
△ ※委託者本人の口座に 入金されるお金を、 追加信託する設定が 必要です。 |
不動産経営 管理処分等 |
△ ※不動産の処分(売却)は、 代理権を設定し、かつ、 必要性が認められる 場合のみできます。 ※不動産経営はできません。 |
○ ※信託財産に 不動産が含まれる場合、 管理、売却の他、 建替などもできます。 |
身分証明書 保険証等の 預かり管理 |
○ |
× ※配偶者など、 ご家族であれば 家族信託契約と 関係なくできます。 |
戸籍謄本等 代理請求 |
○ |
△ ※委任状や印鑑カードを 預かるなど、 請求先の定めに沿う 必要があります。 信託契約自体は 委任状を兼ねません。 |
病院への 入院手続き 支払いなど |
○ | ○ |
介護施設 入居手続き |
○ |
× ※配偶者など、 ご家族であれば 家族信託契約と 関係なくできます。 |
要介護認定 | ○ |
× ※配偶者など、 ご家族であれば 家族信託契約と 関係なくできます。 |
相続手続き | ○ |
× ※信託契約では、 相続手続きの代理不可です。 委託者本人が 手続きをする必要があります。 |
訴訟行為 | ○ | × |
本人(委託者)が 契約中の 契約の解約 |
○ | × |
本人(委託者)が した契約の取消 |
△ ※代理権ありと定めれば、 クーリングオフによる 取り消しは可です。 |
× |
このような違いがあります。
家族信託契約における受託者の業務は、いずれも、それぞれの制度趣旨の範囲内で、
当事者間の協議を経て、オーダーメイドで決めることになります。
そのため、任意後見契約後見人、家族信託契約受託者とも、契約締結時に、
具体的に何を任せてもらうのか、上記の表を参考にして決めることになります。
任意後見人・家族信託契約受託者がすべきこと
次に、任意後見契約で後見人受任者となった方が、任意後見監督人選任の申立てを経て、
正式に後見人として業務をする場合にはどのようなことをすべきなのか、
また、家族信託契約の受託者はどのようなことをすべきなのか、を見ていきましょう。
任意後見契約 | 家族信託契約 | |
---|---|---|
財産管理 | 預金通帳を預かって管理、など |
信託口口座または 信託専用口座の 預金通帳を管理、など |
身上監護 |
老人ホームの入居手続き、など (代理権を明記している場合) |
できません |
書類作成 |
①裁判所所定の以下の書類 ・任意後見事務報告書 ・財産目録 ・収支予定表 ・収支報告書 ・預金通帳のコピー (必要に応じて残高証明書) ・その他、裁判所あるいは 任意後見監督人から 指示されている書類 ②上記の書類を作るために 私的に作る書類 ・業務日誌 ・出納帳(領収書も保管) |
・信託帳簿(領収書も保管) ・信託事務処理関連書類 (預貯金通帳のコピー、 契約書など) ・信託財産状況報告書 ・信託計算書 (信託財産から3万円を超える 収益があったとき。 こちらは税務署に提出) |
定期面接 | 必要 | (任意) |
報告義務 |
・本人への定期的な報告 ・任意後見監督人への 定期的な報告 ・必要に応じて 家庭裁判所での許可取り |
・委託者(=受益者)に対する報告 ・信託監督人を置いている場合は、 信託監督人に対する報告 |
果たすべき責任 |
・預かっている財産を 使い込まない ・任意後見監督人や 家庭裁判所と しっかり連携を取って 業務に当たる ・本人が亡くなるまで 業務を続ける |
・第三者に損害を生じさせた場合、 損害を賠償する責任が発生 ・信託財産で賄いきれない 債務について、 受託者個人の財産で 支払う義務が発生 ・信託財産の横領は厳禁 |
責任の重さ | 大 | 大 |
時間、肉体面の 負担度合い |
大 | 中 |
それぞれ、上記のような業務を行うことになります。
やることがたくさんありますので、これらを引き受けるなら相応の覚悟が必要です。
任意後見契約と家族信託契約にかかる費用
最後に、費用面について見ていきましょう。
(ここに表示してある費用は、各契約で必要となる費用です。
当事務所にご依頼いただく場合の料金は含まれておりません)
任意後見契約 | 家族信託契約 | |
---|---|---|
契約書作成時の 公証役場手数料◆ |
基本手数料 …1万1,000円 印紙代 …2,600円 登記嘱託手数料 …1,400円 送料 …540円 用紙代 …250円×枚数 公証人出張料 …別途計算 |
信託する財産の 金額に応じた手数料 …5,000円~ ※例:500万円以下 →1万1,000円 1,000万円以下 →1万7,000円 用紙代 …250円×枚数 公証人出張料 …別途計算 |
契約書作成直後に 発生する費用 |
登記事項証明書◆ …550円/1通 ※東京法務局でのみ取得可、 別途交通費or送料発生。 |
登録免許税 …固定資産税評価額の 1,000分の4 ※信託財産に不動産が 含まれる場合のみ。 ※司法書士に依頼する場合は その料金も必要。 |
契約書作成後の 課税について |
契約締結前と変わらず |
信託財産に 不動産が含まれる場合、 固定資産税・都市計画税の 納税義務者が受託者に移行 ※契約の中で、 信託財産から税金を支払う、 とすることもできます。 |
業務開始時の 費用 |
任意後見監督人選任審判に係る 下記費用 ・申立手数料 …800円 ・後見登記手数料 …1,400円 ・切手(裁判所に提出) …4,000円前後 ・診断書(医療機関で作成) …5,000円前後 ※医療機関ごとに 金額は異なります。 ・戸籍謄本 …450円 ・住民票の写し …300円 ※市区町村により 異なる金額の場合があります。 ・登記されていないことの証明書 …300円 ※後見人となる方が 後見登記されていない ことの証明です。 ・鑑定費 …5~10万円 ※裁判所が必要と認めた 場合のみ発生。 |
なし |
業務開始後の 費用 |
・任意後見監督人への報酬 …月額 5,000~ 3万円前後 ※管理財産総額によって 異なります。 ・任意後見人への報酬 …契約で定めた額 |
なし |
実際には、各契約の当事者の人数に合わせて、倍(または3倍)かかることになります。
まとめ
如何でしたか。
この記事により、任意後見契約と家族信託契約の違いを把握し、
ご自身にとってどちらの制度が馴染むのか、
考えるきっかけとなったならば、幸いです。
なお、当事務所では、
任意後見契約と家族信託契約、どちらの方が向いているのか、
あなたからのご相談に応じ、アドバイスをすることができます。
また、どちらかを利用することにした場合、
契約書の作成と契約締結がスムーズにできるよう、
あなたをサポートいたします。
自分が信頼できる人に管理してもらうことができます。
元気なうちに、「任意後見契約」をしておくことを考えてみませんか?
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